カトリックの缶詰――フランスと日本のはざまで

本の紹介
長年フランスに住み、キリスト教関係の著作がある著者が、この世の不条理を考え、キリスト教の本質に迫る珠玉のエッセイ集。
長年フランスに住み、キリスト教関係の著作が多数ある竹下節子氏による珠玉のエッセイ集。新型コロナウイルス感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻、地球規模の気候不順による災害などに見舞われた2021~2024年に書き続けられたものに、新たな書き下ろしを加え1冊にまとめました。
この世の不条理を考えれば考えるほど、キリスト教の本質を考えるようになったという著者。ギリシア・ローマ世界とユダヤ・キリスト教世界との出会いによって生まれたカトリコス(普遍)こそが争いのないグローバル世界をめざす力を与えてくれると言います。著者はさまざまな興味深いトピックをおりまぜながら、聖霊にインスパイアされながら、深い洞察を加えています。
カトリック文化が深く根付いているフランスと、人口の約0.35%しかいない日本のカトリックの比較文化的考察を通して、イエスの言葉の本質に迫り、日本におけるキリスト教の歩みと未来について、多くの洞察を与えてくれます。
また、著者の個人的な出会いや体験に基づく、温かい語り口に引き込まれて読み進めていくうちに、信仰の旅路を著者が旅先案内人のように導いてくれます。本書の読書体験はそのまま、上質な日仏の比較文化体験となり、よいカトリック入門となっていきます。
書誌情報
- 出版社
- 出版社: オリエンス宗教研究所
- 著者・訳者等
- 竹下 節子 著
- 書店発売日
- 書店発売日 2026/04/01
- 判型・ページ数
- 判型・ページ数 B6判・並製・256頁
- 定価
- 定価 2,200円(税込)
- ISBN
- ISBN 978-4-87232-126-5
著者のコメント
この本はドンボスコ社の『カトリック生活』で20年にわたって連載していた「カトリック・サプリ」の中から、同社の5冊の新書に入っていないものをまとめ、カトリック新聞に短期連載したものや書下ろしなどを集めたものだ。新書の第二巻の前書きを寄せてくれた淳心会のスクルス神父と関係の深いオリエンス宗教研究所が、「カトリック・サプリ」の続編ともなるこの本の出版を引き受けてくれた。
その経緯からすると、がちがちのカトリックの本で「信者」さんに向けて書いたものだと思われそうだが、そうではない。もともと『カトリック生活』は教育修道会であるサレジオ会の出版社であるドンボスコ社から出ていて、日本に多く存在するミッション・スクールの教師や父兄(そのほとんどはカトリック信者ではない)のもとに届くことも前提としたものだからだ。それには「サプリメント」というネーミングがちょうどいいかもしれない、というわけだ。
教区への帰属を大切にする日本では、日本に住んでいない私はもともと「自由」な存在だから、私に書く機会を提供してくれる日本のカトリック関係者はそういう自由なスタンスを歓迎してくれた。今回「サプリ」から「缶詰」になったわけは訊いていないけれど、サプリより賞味期限が長いかなあとも思うし、携帯にも便利でぎゅっと詰まっているという印象なのかなあと感謝している。
これまでにも話したり書いたりしてきたけれど、キリスト教に対する私のスタンスは、フランスで公共要理を子供たちに教えている神父さんが「クリスチャンの生き方というのは、他者のライフがより快適になるようにできるだけの努力をすることです」、「それを知ってもらうことが目的です」、と言ったのを聞いた時に決まったものだ。
「他者」というのは自分以外の人ということで、ライフとは毎日の生活であり命でもある。相対的に強くて大きい者が相対的に弱くて小さい者のためにできるだけのことをする。人生の各瞬間においてそばにいる人との相対的な関係であって、固定した立場や権力勾配などではないし、神や仏などの絶対者にすがるという構図でもない。ある時点で、何かをできる人がその何かをできない人のために手助けする、というシンプルな指針だ。
もちろん実際はそう簡単ではない。よく見ると、何かができないとか足りない人がいても、見て見ぬふりをするどころか弱さに乗じるような生き方の知恵が世間に蔓延しているからだ。
自分が弱かった時に誰も助けてくれず自力で解決したから他者にもその強さを求める、という人もいる。でも、本当に完全に「自力」だけで生きていくこと自体、不可能なのだから、誰でも、手を差し伸べてくれた誰かの恩を受けている。それを絶えず忘れないようにしたい。
この本は玉谷直実先生に献げることができた。
玉谷先生は、講談社選書メチエの『聖母マリア』を読まれて、出版社を通して用語を訂正してくださった。その後、先生の人脈から奈良女子大での講演が可能になり、それを通して、高校の同窓生と再会した。さらに、玉谷先生の英知大学の同僚でいらした淳心会スクルス神父との出会いを通して、神学書を翻訳することになり、スクルス師との長いお付き合いがはじまった。
日本のカトリック世界など全く知らず、近づきがたいイメージを持っていた私は、ドンボスコ社の金子賢之介神父や淳心会のスクルス神父という自由で生き生きとはじけた年長者との出会いのおかげで、カトリックの持つきょうだい愛の「普遍性」を再確認することになった。お二人が寄せてくれた絶対の信頼のおかげで、日本のカトリック世界の門が私に開かれただけでなく、カトリックとは関係のない「一般読者」にもカトリックをとおしたキリスト教の生き方の理想が伝わるような気がした。
お二人は新書版『カトリック・サプリ』に序文を寄せてくださった。序文を寄せてくださった三人目は東京大司教だった岡田武夫師だ。友人でもあった三人の「先輩」はこの世を去り、もう本の感想を寄せてくれることはない。けれども彼らからもらった信頼と励ましは今も続いている。この本が多くの人の目に触れ、この本を通して、イエスの説いた普遍的な人間愛と支え合いの精神が、この世界に生きる私たちに勇気を与えてくれることを期待してやまない。